（全　文）

神々の国バリ、ヌサドアを出て北へ、南国の鬱蒼（うっそう）としたジャングルのような都市ウヴドーに私はジープを走らせていた。辺りは古代都市さながらの寺院の前で車が急停車した。辺りはしーんと静まり返り、先程まであれ程さえずっていた鳥の声も消えうせ、冷たい風が漂（ただよ）ってくる。寒い。思わず身震いする。ふと、我に返ると、ザワザワと草木の音が、そして太陽のまぶしい光が、私の肌を刺す。ここはどこだ。神殿のような建物の前に立っていた。
　どのくらいたっただろうか。辺りはそろそろ夕闇が近いことを月の魔力が教えていた。
　神殿の怪しい空気が私を包み込む。そうだ。ここは闘いの場所ではないか。私は以前、エアーズロックで得た自分に宿る不思議なサイキックパワーを確信していた。きっと私はサイキックパワーで闘うためにここに来たのだ。しかし、誰と？　神殿の扉がわずかに開いたように感じた。　瞬間、私は息苦しさを感じて、ひざまずいた。私の体が小刻みに揺れている。なんだ、これは。心が掻（か）きむしられるように苦しい。すると、心の中に悪の限りの感情が溢れて来た。近ずくものは傷つけずにおかないような感情が私を苛（さいな）む。私は目を閉じて、心の中で必死に闘っていた。そう、それは善と悪との闘い。白魔術と黒魔術の駆け引き。何かが私の周りを回っているように感じた。物の怪（け）の気配に目を開けると、私は息を呑んだ。いくつもの髑髏（どくろ）が私に向かって飛んで来た。私は手を振りかざして追い払うが、髑髏（どくろ）は不気味な笑みを浮かべながら飛んで来る。時が止まったように感じた。気が付くと私は悪霊に全身を占領され、心まで支配されようとしていた。長い葛藤の末、私はサイキックパワーを使って私の腕をえぐり、流血と共に自分に宿った悪霊を抜きさった。すると、一瞬にして髑髏（どくろ）は消え去った。
　ケチャケチャケチャ。男たちの声がこだまする。その声は次第に大きくなり、神殿目指してやって来た。夜と共にラーナヤナの伝説が始まり、美しい女性たちと共にケチャックダンスの饗宴（きょうえん）。激しいリズムに私も酔いしれた。人々の声も止み、やがて夜が白々と明けてきた。闘いの疲れからか、私は神殿で眠り込んでしまった。鳥のさえずりに目を覚ますと、私の顔に何やら仮面のようなものがかけてある。手にとってよく見ると、善の神・バロンの仮面だった。誰がかけたのだろう。きっと、善の神・バロンに贈られたもに違いない。
　そして、私の果てしない挑戦はこれからもミステリアスな旅へと続くのである。　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ルーフ広宣